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『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』を読んだ

はじめに

お通夜会議を脱したい

「こういう感じで考えてみたんですけど、ご意見ある方いらっしゃいますか?」

「…」

沈黙が走る。

たたき台を作ってまとめる、そこまでは順調に進んだが、実際にチームにシェアする場面で投げかけた一言にはなかなかレスポンスがなく、どう進めようか画面の前で汗ダラダラ…。何か前に進めなければと思って振り絞るも、結局進め方がわからず「アッ…」となってしまう。 なんやかんやしているうちに、1 人が出したよさそうな意見がめちゃめちゃ眩しい…。なんだかいい感じだ!みんなも良さそうと言っているし…ええいもう「なんとかなれ〜!!」。

…とまあここまで極端ではなくても、参加者の意見をリアルタイムに汲み取りながら進めていくタイプのミーティングでこうした状況になってしまうことはままあります。

そのためどうにか再現性高くこのお通夜会議1を脱したいと思っていました。

『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』を読んだ

book 画像引用元: https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761527433/

前から認識してはいたのですが、課題感が募った今がまさに読み時だろうと思って問いのデザイン 創造的対話のファシリテーションを読んでみたので、この本を読んで得たヒントをまとめてみます。

なお本書の構成としては「課題のデザイン」「プロセスのデザイン」の前後編に分かれており、ざっくり前者は What を、後者は How を解説した内容になっています。 どちらも参考になる部分がとても多かったですが、今回は特にお通夜会議攻略の糸口という観点で「プロセスのデザイン」に今の自分に刺さるヒントがあったので、そちらの内容を整理してみます。

ファシリテーションのヒント

課題への道を経験のプロセスとしてデザインする

これは 4 章 ワークショップのデザインに書かれている内容なので、通常運営のミーティングとはややニュアンスが異なるかもしれませんが、自分としては十分応用できる内容だと思いましたので自分の解釈と共に紹介します。

まず本書におけるワークショップは「普段とは異なる視点から発想する、対話による学びと創造の方法」となっていて、その実現のために経験のプロセスをデザインすることが大事だと言います。 具体的には最終的な課題に対して、「導入」「知る活動」「作る活動」「まとめ」の 4 つのプロセスを設計していきます。美味しい料理を作るために下ごしらえが必要なように、課題に対してアウトプットを出す際にも、情報を知ることなり、それぞれがイメージやビジョンを巡らせるなどの下準備が必要というわけです。

よくよく考えてみるとお通夜会議も、得てして「問いかけられた側が答えを持っている」かのような前提で始まることが多い気がします。実際のところは、その会議を持ちかけた側が課題に対しての熱量と情報量が高く、反対に持ちかけられた側は日常の別タスクをこなしているところからその課題に向き合うため、全くもって準備万端ではありません。そう考えると反射的に答えられないこともよく頷けます。

そのため会の目的にもよりますが、最終的な課題へ参加者の頭を切り替えさせるようなアイスブレイクや問いの足場を段階的に設けることが必要になりそうです。 例えばスプリントレトロスペクティブであればいきなり KPT をあげるという「作る活動」に移行するのではなく、まずはチームでいいところも悪いところもあげるようなアイスブレイクを「導入」として用意し、そのスプリントでどんな積み上げをしてきたのかを「知る活動」を設けた上で、KPT に挑むという具合です。 (これに倣って最近では「賛否両論」というアイスブレイクをレトロスペクティブに取り入れてみたりしています。これはまたいつか紹介します。)

例に挙げたスクラムイベントのようにある程度定期的に開催されるイベントはこのようにかっちりと当てはめやすいですが、日々流動的に発生するミーティングにこれを適用するのはやや難しいなと感じています。 そのため、大枠としてミーティング全体を Input・Output の 2 枠で捉えて、Output に対して必要な Input の部分が荒くないか?という観点でミーティングを観察し、必要に応じて後述の制約を設けた問いを投げるようにしてみています。 現状成功率は 8 割くらいですが、全く道標がない状態よりも大枠を一定のプロセスとして捉えることは、一定成果があるように思います。

問いに制約を設ける

もう 1 つなるほどと思ったポイントが、問いに対して制約を設けることです。

具体的には以下のようなテクニックを使うことで、問いに対して制約を課し、参加者の思考の足がかりを形成することを試みます。

  1. 価値基準を示す形容詞をつける
  2. ポジティブとネガティブを示す
  3. 時期や期間を指定する
  4. 想定外の制約をつける
  5. アウトプットの形式に制約をつける

お通夜会議でよくある「何か意見あればお願いします」や「感想でもなんでもどうぞ」は、問いかけとしては広すぎるため、参加者からすると「どこから考え始めていいのかわからない」ことに加え、一見どんな意見も許容しているように見えて、参加者心理では回答のガイドラインがないために「この内容を答えてしまっていいのか?」という不安が生まれてしまいます。

各テクニックの詳細は本書を参照していただくとして、自分がいいなと思ったのが「アウトプットの形式に制約をつける」テクニックです。この方法では、「〇〇するための 3 つの条件は?」「〇〇を起承転結で表すと?」といった具合にアウトプットの形式に制約がかかっています。 お通夜会議では Input のフェーズで話している内容が絞られておらず、自由に発散しているため議論が収束しにくいです。そのため、いくつかの発散が行われたタイミングで「この中から 1 つだけ対応すると考えた時、どれを選びますか?」と問いかけを行うと、参加者の思考の足がかりになり、議論が進みやすくなるのではないかと思いました。2

感想

本書を読むまでは、お通夜会議に陥った際に、出口までの順路がぐにゃぐにゃになってしまって、着地できるかどうかは運任せでした。

最近では少しずつちいかわ状態に陥った際にもリカバリがわかってきて、「今はインプット・アウトプットどちらに当てるべき時間か」「場に投げられている問いは広いか?広いならどう制約をつけたせそうか?」といったことを考えながら発言したりしています3。 これは別に自分がファシリテーターではなくても有効な考え方で、自分が一参加者の場合もお通夜会議になりそうだったら、今回挙げたようなポイントで出口を探っています。 ファシリテーターはあまり余裕がないので、共通認識として本書の考え方が通っていると、全体の議論の質も上がりそうです。

色々試しつつ、少し成果を出しつつもありますが、まだまだ課題も色々あります。

  • ファシリテーターとしての帽子と開発者としての帽子を同時に被るのは大変
    • 基本的に「この問いが広いのか、狭いのか」「全体の熱量はどのくらいか」といった観点は、議論から一歩引いた姿勢になる。
    • 日常に湧き起こるミーティングのほとんどは自身も当事者であり、それだけがうまくできていればいいわけではない(本質は課題を解くこと)。
    • 別の誰かがコントロールしてくれている、誰かが意識しなくても自然とうまく進んでいるときであれば、当事者としてのアクセルを全開にするような切替が求められそうだけど、難しい。
  • ファシリテーターは黒子だけど、うまく解決できることが楽しくなってくると黒子ではなくなる
    • この手法で楽しくなっちゃっているレベルはまだまだなんだろうなという気持ち
    • エンジニアの麻疹のように、まずはガッチリ使い込んで、その後に自分なりの解釈を加えていきたい
  • いつも成功するわけではない
    • いろいろ試している感覚として、お通夜になったときにそこに再度アクセルをかけるのは 8 割 5 分くらいの成功できていますが、それ以降確実に収束の方向性へ迎えるかは正直運なので、確度をあげたい

というわけでもう少し意識的に続けてもっと良くできるように頑張ってみたいと思います。

Footnotes

  1. 別名ちいかわ会議

  2. ちょくちょく仕事でもこの質問を投げる機会があるんですが、聞く時には脳内で BUMP OF CHICKEN の「ダイヤモンド」が流れています(サビの歌詞参照)。

  3. しかしこれが周囲から見て機能しているかはまた別問題である。。。

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